春耕府中句会では春と秋の吟行を恒例としている。今秋は11月10日(木)の定例句会を東京農工大学(以下農工大)農学部の学内散策吟行とした。主宰は都合で欠席されたが16名が参加し午前中は散策、午後は句会を行い大いに盛り上がった。学内散策の案内は府中会員で農工大近くに住まわれ、農工大は勿論各地区の吟行事情に詳しい小林美智惠さんと補助の柿谷が担当した。農工大は京王線府中駅またはJR国分寺駅よりバスで7、8分に位置する国立大学である。午前9時30分に全員が大学正門に集合した。昨日までの雨と寒さが嘘のような小春日で、最高の吟行日和となった。

 農工大は昭和10年に東大農学部実科が東京高等農林学校としてこの地に独立したものである。国力強化のために農業の振興と人材育成を説き農学部設立に貢献したのが大久保利通であることから、正門を入ってすぐ左に利通の碑がある。大木に囲まれて昼でも暗く鵯や鵙の声がする。

 正面の本館は東大安田講堂を手掛けた内田祥三が昭和9年に建てたもので、現在は国の登録文化財に指定されている。E字形で左右対称、時計は四面にありどこからでも時間が確認できる。窓や扉のアールデコ調の装飾がしゃれたアクセントになっている。近代的な図書館と学生食堂をつなぐ道の両側に数棟の校舎、木立、池があり初冬のキャンパスが満喫できる。

 学園祭に向けてコーラス部が練習しており、また色とりどりのパネルをたてて宣伝活動をする学生もいる。木立の中に桂の大樹が二本あり黄葉が特に美しい。その横には、始業や終業の合図を昭和30年代まで守衛が叩いて報せたという鐘が残されており当時を偲ぶことができる。

 更に校舎横の芭蕉は見逃せない。偽果を垂らしたり、バナナのような房状のものを付けている芭蕉など10数本が群生している。葉の破れたものもあるが、まだ青々として逞しささえ感じる。それらを見た後、各自朴の実を拾ったり、枕木を朽ち止め加工したベンチに憩ったりし一時休憩をする。

 木立を抜けて農場に行く。ここからは小グループに分かれて自由散策である。大学構内、農場はとにかく広い。畑も空も広く風がまっすぐ吹き抜ける。山茶花や茶の花の径もまっすぐだ。土壌改良のためのクロタラリアの咲く畑は、まるで菜の花が一面に咲いているかのように見え黄色の絨毯を敷き詰めたようだ。そのほか大豆、ひまわり、芋、葱、ブルーベリーの紅葉、桑、牧草のロール等々数多あり、掘り返された土の匂いもする。

 農場に離接する厩舎には学生馬術部が管理する10頭の馬とポニーが飼育されている。女性部員も大勢いて男性部員と協働で厩舎の掃除や馬の面倒を見ている。馬は一頭ずつ名前を付けられており、我々が名を呼ぶと振り向くなど愛らしい。目も大きく潤んでいる。

 学園祭では構内の馬場でのデモンストレーションがあり、また馬に餌をあげたり鼻を撫でたりすることができるので大人も子供も大喜びするとのことだ。

 5月の府中大國魂神社の暗闇祭の競馬式(こまくらべ)では、これらの馬6頭を神馬とし馬術部員が騎乗し、以前は欅並木を現在は旧甲州街道を三往復する。女性部員も騎乗し華やかだ。厩舎の入口のみごとな黐の木の実を見て散策を終わる。

 徒歩15分の句会場である府中市中央文化センターの近くの公園に行き昼食をとる。句会は午後1時~3時半で5句投句5句選である。吟行地と会場が近いので移動がスムーズであった。

 多くの出会いと発見があり、また天気もよく有意義な一日を過ごすことができた。【報告 柿谷妙子)

当日句より
裏がへり葉脈しろき朴落葉利子
昼暗き利通の碑や冬の鵙妙子
枯芭蕉枯れ初めて尚仁王立美智惠
小春日や触れたる馬の目のやさし由志美
正門を埋めし自転車黄葉ふる 
大き実を散らし舞ひ来る朴落葉富彦
ゐのこづち払ひつ列の後を行く博之
木の椅子に落葉降りしく昼下り久子
獣慰霊碑日の影薄く冬初め政美
あをあをと冬菜生ひゐる学の畑 
小さき花にしがみつきたる冬の蝶知子
黐の実や白馬の眼黒々と惣子
樹名板の裏に越冬守宮かな悦子
飯桐の実は天辺に空は蒼節子
黄落や学徒の背にひらり落つ洋吉
破芭蕉むなしく風を扇ぎけり洋子