衣の歳時記(91) ─秋の服 ─                        我 部 敬 子

 

 家の中にいても時折肌寒さを感じる10月。秋が深まるとともに、旅行やスポーツを楽しむには最適の季節となる。人々は秋らしい服に身を包み、活動的に動き出す。

いづれの胡族なりや秋服翻す福永法弘

 秋になって着る服装の総称である「秋の服」。夏服の薄い素材や色合から、落ち着いた趣のものへと変わっていく。生地は保温性のある布が選ばれる。夏と冬の間に着る合着ともいわれ、着る期間はそれほど長くはない。副季語は「秋服」「秋の帷子」。

秋服や人の絶信袂より平畑静塔

 秋の装いには、着物であれば秋袷、セルや単衣の帷子などが含まれるが、多くの歳時記が「秋袷」と「秋のセル」を独立した見出し語としている。「秋の帷子」だけが「秋の服」の副季語に残されており、少し漠としたところのある季語といえよう。

数珠のすく袂も秋のかたびらや成美

 春服の明るさに対し、秋の衣は「秋」という言葉に纏わる様々な情趣を持つ。「秋の服」の例句は非常に少ないのだが、次の句にはその一端が見えるのではないだろうか。

秋服や蝶タイをやや憂鬱に阿片瓢郎

 また「秋袷」は、日本人が長年馴染んできた着物であるだけに、句に侘しさや哀感がしみじみと感じられる。

病み痩せて帯の重さよ秋袷杉田久女
淪落の底の安堵や秋袷日野草城
人は憂を包むやうにも秋袷細見綾子
父の齢こえて身に添ふ秋袷神谷三蔵

 どれも季語の本意を最大限に引き出した見事な句である。
 今日「秋の服」を詠むとすれば、まず洋服が念頭に浮かぶ。洋服でこれだけの深い情感は期待できそうにない。難しい季語なのだろう。
 余談だが、秋冬の衣服で何となく気になっていることがある。昨今綺麗なプリントのフレアースカートやレースのタイトスカートが流行している。普段ジーンズやパンツルックを格好よく着こなしている人たちがスカートを穿くと、一層華やいで見える。スカート派の筆者には嬉しい光景である。
 しかし、秋から冬にかけて気温が下ると、スラックス派が増え、年齢が上がるにつれその傾向が強まる。暖かく機能的な上に、デザインも豊富なので好都合なのだが、何か物足りない。シルエットが消されてしまうからだ。
 今秋はなるべくスカートを組み合わせて洋服の風情を楽しみたい。スカートの歴史は数千年、女性のズボンのファッションはまだ数十年である。スカートを詠んだ「秋の服」の句ができればよいのだが……。