晴耕集秀句

遠くより又近くより夕かなかな池内けい吾

七草の尾花最も淋しくて伊藤伊那男

小鳥来る吹き矢のごとくひそやかに蟇目良雨

大ばつた八十路の肩を跳び越せり山城やえ

秋霖の池の水面を見て飽きず柚口満

ふだん着の心を永久に吾亦紅奈良英子

蟷螂の憤怒の貌のほか知らず杉阪大和

使はれぬ父の文机ちちろ虫倉林美保

生きねばと点滴棒押す今朝の秋島田ヤス

なでしこの色の定まる綾子の忌深川知子 

 

雨読集秀句

蟷螂のふり向きざまの眼の大き宇山利子

コスモスの果てまで風のゆき渡る柿谷妙子

空の色海より深し稲架日和木崎七代

山鉾を解きたる縄のよく匂ふ木村てる代

黄楊櫛を買うて木曽路の秋惜しむ斉藤やす子

墨堤に蟹穴あまた木歩の忌坂下千枝子

飛火して畦炎上す曼珠沙華杉原功一朗

大鍋の三万食の芋煮会成田節子

鳴き声の先に届きて鳥渡る橋本公枝

咲き終へて火皿を閉づるきせる草若田部松芯

 

耕人集秀句

秋の日や坂東太郎ゆつたりと沼尻節子

ふいに止む虫の音耳に残りけり菊池惠子

生き抜いて来し面構へ上り鮭上野了子

逝く人の言の葉重し草の花山本由芙子

首里杜(すいむい)や蒼天に舞ふ鷹柱伊佐節子

日のにほひ風のにほひも九月かな木曾令子

破芭蕉自在に風を捌きけり大林明彦

淡々と野にありてこそ吾亦紅林美沙子

四五本の芒を鞭に牛方衆徳本道子

母在りし日のうすれゆく今日の月横山澄子