白梅や玉垣に沿ひ女坂
大寺の鴟尾より上る春の月
石蹴りの輪の大きさに春の月
大菩薩峠に拾ふ落し文
山祇の月夜に泛きし朴の花
杜を出て西の空ゆく黒揚羽
小名木川岐れるあたり花筏
炎昼の貝が吐き出す海の砂
山の子の鉄路を歩く初時雨
月の下虜囚に遠きわが祖国
灯を消すや母遠くなる月の夜
衣被残るこの世をおもしろく
秋風と来て結界の庭を掃く
ぬばたまの夜の静寂を除夜の鐘
文箱より母の文読む冬襖