普段着の変らぬ顔や初鏡
文机に日の斑のゆるる春の彩
遠景の耕す人や夕間暮
足袋を履き花見の顔となりにけり
舞ひ上るものの中にも散る桜
戻り来て爪先ほぐす花疲れ
三月の海穏やかにしたたかに
一滴の目薬重き花の雨
麦畑の夕日の彩を刈り終へる
翡翠の一打音なく水輪のみ
蛍火にしばし心音合せけり
緑蔭や人の寄る木と寄らぬ木と
芒野の風に葉ずれの音紡ぐ
敷石に彩を散らして熟柿かな
小春日を巻き込んでゐる糸車