一畳のテントの中や初寝覚
雛飾るまではひつそりしたる部屋
春潮の海窪ませて渦生まる
寺前に住み朝遍路夕遍路
山門といふ薫風の出入口
父の日も寡黙をもつて過しけり
生きること時に忘れて昼寝かな
島ひとつ丸洗ひして夕立去る
地に足を降ろして終る松手入
老人にまだなりきれぬ敬老日
人間に成り済ましたる案山子かな
真ん中の窪みし硯洗ひけり
年の夜に見つめる南十字星
一輪に呼び止められし返り花
手の力抜きてつかみぬ寒卵