春着より芝居の花片こぼしけり
蓬々と寒天小屋の土間広し
梅一輪会はねば人の遠くなり
大野焼火影に人の動きをり
ひとひらも散る気配なき夜の桜
麦秋や戻りてくらき家の内
蓴採りおもひおもひの胸蒲団
孑孒を捨て花筒に閼伽満たす
長堤のけぶらふ茅花流しかな
すもも祭川中島より出張り来る
炎昼や野鍛冶のつまむ壺の塩
潮引きし砂の緊まりや九月尽
ためらはず鋤き込まれゆく穭かな
千里来て白鳥の声かしましき
したしさの無言や毛糸編みすすむ