鈴木志美恵
辛夷咲く
五穀札吊し繭玉はなやげり
遺影にも身固めしたる初神楽
えんぶりの一番太鼓雪散らす
春めきて夫に買い足す軍手かな
一村に水脈々と辛夷咲く
鍬鎌に祖父の焼印耕せり
囀りの声入れかはる空の色
搾乳の甘き匂ひや梅真白
今塗りし畦に鋼のごとき艶
片寄りし芥掬ひて代田成る
屈む背の母似と言はれ田の補植
万緑や仔牛に指を吸はれをり
貌ぢゆうに乳汁の仔牛梅雨の明
数珠揉んで泣き伏すいたこ茣蓙灼くる
穂孕みの田に水満たす大夕焼
稲の穂や夜は縁日の神酒に酔ひ
牛守の声ほうほうと霧流る
裏木戸に風さはさはと早稲実る
産土に太古のしじま暮の秋
田の神を山に帰して冬一途