「耕人集」 4月号 感想                          高井美智子 

凍土や鉄鎖引きずる象の脚木原洋子

 動物園やサーカスでは、象を鉄鎖で繋いでいるが、拘束された象の哀れさにいたたまれない気持ちとなった。「凍土や」の季語を使って、心情を現すことができた。
  最近では飼育法が見直されて、鉄鎖を使用しない動物園も増えており、のどかに歩き廻る親子連れの象を見ることができる。

石室に光差し込む淑気かな日浦景子

 石室とは巨石を積み上げて造られた石室古墳であり、六世紀の築造である。
 奈良県明日香村の石室は石舞台と呼ばれており、石室の中に入ると、石の隙間から光が差し込む。「淑気かな」の季語によりこの光の神々しさが見えてくる。悠久の時空へ思いを馳せる広がりのある句となった。

亡き夫の冬帽被り外つ国へ山﨑眞知子

 亡くなられたご主人の冬帽を被って外国へ旅立った。きっと一緒に行く約束をしていた国であろう。今もご主人が胸の中に宿っており、一緒に旅を楽しんだことだろう。

左義長の祝詞に乗れる火の穂かな村上啓子

 左義長は今年の恵方に点火し、神主の祝詞が始まる。風にちぎれ舞い上がる火の穂が祝詞に乗っていると捉えたところが素晴らしい。荘厳な左義長の神事である。

深彫りの円空仏や涅槃西風浅田哲朗

 円空は樹木に樹神が宿ると信じ、魂を込めて彫った神仏像は「円空仏」として伝えられている。樹木を彫ること自体に仏教儀礼の意味をもたせ、彫り痕をそのままのこしているのが特徴である。
 この彫り痕を「深彫り」という措辞で見事に言い当てている。まだ肌寒い涅槃西風の季語と響き合っている。

亀になり鯱になり梯子乗花枝茂子

お正月の出初め式で披露する梯子乗は、江戸の火消しの行事を今に伝えている。青竹で組まれた梯子の天辺で体を支え、様々な技を演じる。亀になり鯱になる早技を、観客は固唾を呑んで見上げている。「遠山の頂越えて梯子乗」の句も同時に詠まれている。江戸の頃から伝わる日本の伝統を俳句でも残していきたい。

向ひ風竹馬の子の前かがみ齊藤俊夫

 竹馬の子が、「向ひ風」に煽られそうになったが、絶妙なバランス感覚で前かがみとなり倒れなかった。この素早い動きを見逃さず、観察して得た秀句である。

亡き妻の文字の残れる古暦玉城玉常

 奥様が亡くなられて、まだ一周忌も迎えていない。古暦に予定を書き入れられていたのであろうか。類想のないしみじみとした句である。