「耕人集」 12月号 感想 高井美智子
藪漕ぎや谷戸の高みに野紺菊清野登水
山中の道のない藪の密生地を搔きわけて進んでいく「藪漕ぎ」は、まるで探検そのものである。身の丈を越える藪を搔き分け、やっと谷戸を抜け出た時、高みに野紺菊を見つけた。さぞかし安堵したことでしょう。熊に出会わなくて良かったですね。
琉球の斎 庭(ゆ に わ)をさらす稲光川名章子
斎庭とは、琉球の神を祭るために斎い みを清めた境内の一角であろうか。そこに突然稲光が奔った。この鮮烈な様を「斎庭をさらす」と表現したことが素晴らしい。
鈴虫と闇を分け合ふ峡の宿松﨑幸弘
鈴虫に聞き惚れている様子を独自の感性でとらえている。作者と鈴虫だけの闇が広がる静かな世界を中七の「闇を分け合ふ」の措辞で見事に表現している。
バーボンとジャズに酔ひゐる夜長かな源敏
バーボンの歴史は18世紀にさかのぼり、アメリカ合衆国のケンタッキー州を中心に発展した。製造方法は、原料の穀物を80度以下で蒸溜し、内面を焦がしたホワイトオークの新樽で熟成させる。熟成期間は数年から数十年と幅広い。樽はバーボンの風味を決定づける重要な要素で、新品のアメリカンオークを使用し内側を焦がすことで、独特の香りや色をウイスキーに移している。
バーボンの深い味わいを楽しみ酔いしれて、お気に入りのジャズを聞いている。広大なアメリカでの旅行の思い出に浸りながらの至極の夜長である。
菱採りし池の濁りのいつまでも面地豊子
菱採りとは、盥舟を出して菱の実を取ることである。菱の実は、二つの鋭い突起を持ち、味は栗に似た風味があり、実の殻は固い。菱採りの後いつまでも濁っている。この濁り具合から重労働の大変さも想像できる。発見したことに焦点を絞り込んだ作品である。
菊抱へ漱石に会ふ雑司ヶ谷太楽登美子
漱石忌は12月9日である。江戸の昔鷹狩りの地でもあった雑司ヶ谷墓地に漱石の墓があるが、大きく立派なので抱えるほどの菊を供えるのに相応しい。「漱石に会ふ」の措辞に親しみが込められており、漱石の書物を愛読している作者が窺える。
神島を望む城壁鷹渡る玉城玉常
神島とは大神島のことで、宮古島からフエリーで15分の離島で、古くから神が御座すと伝えられている。神島を望む城壁とは、宮古島の高腰城跡の自然の石をそのまま積んだ城壁の礎石のことであろうか。また、沖縄本島の中部の中城城跡にも石垣がある。自然の岩石や地形を巧みに活かして築かれており、その美しい石垣からは東シナ海が広がる。良く晴れた日は沖縄からも神島が見えるのかもしれない。これらの城壁から海へと鷹が渡っている壮大な景を、大らかに詠いこんでいる。
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