はいかい万華鏡(14)
─電流計 ─
蟇目良雨
新発田時代の加藤楸邨を探ろうにも楸邨が中学時代であったので追い切れなかったが、楸邨の祖父が庄内藩出で戊辰戦争で負け組になり、楸邨の父は16歳で北海道の荒地で働かされたことを知り、楸邨の苦学の原点がここに求められた気がした。
我が家も南部藩の出で維新後は苦労の連続であった。南部藩は北海道の開拓へ出されることもなかったが、父は師範学校を出て教員をしていながら文学に憧れるも挫折し、新聞記者の雇いから記者になり一生を地方記者として過ごした。健康だったのでやりたいことが有ったろうにと今にして思うのである。
私の新発田高校での思い出は二つ、その内の一つは山登りであった。体育の授業で、山にベテランの先生が、雪中で過ごす時に新聞紙を体に巻き付けて寝ろとか、いくつか教えて戴いたが他のことは忘れた。2年生になって梅雨の前に近郷の五頭山(912㍍)に引率していただいた。高々900㍍だが、新潟平野からいきなり立ち上がるので登るのはそんなに容易ではなかった。貧しい時代ゆえ、登山靴とかキャラバンシューズを買って貰えずにゴム長靴で登った。そんな時代であった。遠く佐渡島、粟島が見えるはずなのだが見た記憶がないので曇日だったのだろう。下山して麓の村杉温泉に浸かった。
その夏休みに足の整形手術を新潟大学病院で受けたがうまく行かず、走ることも、山登りも出来なくなってしまった。従って私の唯一の登山経験になった。執刀していただいた河野教授は高野素十に法医学を学んだと後に蒲原宏さんに教えて戴いた。
———————— ※ ————————
省エネを求められる時代です。使用している洗濯機や乾燥機は何ワット消費するのかを知りながら生活しているでしょう。
昔、理科の授業で豆電球を電池でつないで回路に何アンペア流れるかを測ったことがありますね。回路に電流計をつないで全体を流れる電流を測って結果を出しました。
この実験の結果は実は正確ではありません。元々あった回路に流れる電流を測るために、余計な電流計を繫ぎこんでいるので元の姿ではない回路の数値を求めたことになります。
知ろうとして真の姿を歪めてしまった結果なのです。古典物理学においては「観察者効果」と言われます。
俳句にもこうしたことが往々にして見られます。どういうことかと言いますと、例えば、桃の枝を剪定している様子を離れて静かに観察していれば作業をしている里人も自分の仕事に没頭してありのままの普段の作業を見せてくれますが、俳人が近づいて、話しかけたりしますと里人は身構えて普段の作業をしなくなってしまいます。後者が実験でいうところの電流計を差し込んで真の姿を変えてしまった状態になります。
俳句を作る態度は自由ですが、結果として作風に影響が出ます。取材に熱心な余りその場の自然の雰囲気を壊すと、取材には成功しますが、往々にして報告俳句になることが多いようです。俳句は自然から自ずと授かるもののほうが深みが出るようです。
- 2025年6月●通巻551号
- 2025年5月●通巻550号
- 2025年4月●通巻549号
- 2025年3月●通巻548号
- 2025年2月●通巻547号
- 2025年1月●通巻546号
- 2024年12月●通巻545号
- 2024年11月●通巻544号
- 2024年10月●通巻543号
- 2024年9月●通巻542号
- 2024年8月●通巻541号
- 2024年7月●通巻540号
- 2024年6月●通巻539号
- 2024年5月●通巻538号
- 2024年4月●通巻537号
- 2024年3月●通巻536号
- 2024年2月●通巻535号
- 2024年1月●通巻534号
- 2023年12月●通巻533号
- 2023年11月●通巻532号
- 2023年10月●通巻531号
- 2023年9月●通巻530号
- 2023年8月●通巻529号
- 2023年7月●通巻528号
- 投稿タグ
- 電流計