俳句時事(168)

作句の現場「河津桜」と「吊し雛」         棚山波朗

早咲きの桜として知られる伊豆の河津桜は1月に開花し、2月中旬に見頃を迎える。今年は寒い日が続いたのでやや遅れ、その分花見の期間も長かったようである。
伊豆急河津駅を出て道路を渡ると、すぐ右手に桜並木が続く。どれも樹齢50年ほどで、幹が大きく分かれ、更に枝が八方に伸びている。咲き揃った花は春の陽射しを受け、明るく穏やかな雰囲気が辺りに漂う。
河津桜は町内の故飯田勝美さんが、昭和30年頃、河津川沿いの雑草の中から見出したもので原木は、今も咲き続けている。大島桜と緋寒桜の自然交配によるものとされ、咲く時期や、花にその特色が出ているという。
河津町ではあちこちで植栽に力を入れ、現在町全域で8000本、そのうち300本が駅周辺に植えられているという。
町内を流れる河津川の両岸が桜並木となっていて大勢の人が訪れる。ゆっくりと歩いて桜を見上げたり、花房に顔を近付けている人もいた。
並木通りに園芸の店を出している石井文令さんに聞くと「今年はあまり良い出来ではなかった。急に寒かったり、強い風が吹いたのが影響した」とのことだった。
最近は伊豆のあちこちで河津桜が移植され、早咲きの桜として人気を呼んでいるようだ。
寒さのまだ残るこの時期に伊豆で知られるもう一つのイベントが稲取の「雛の吊し飾」である。
稲取駅から歩いて12、3分のところに雛の館と呼ばれる「むかい庵」がある。ここでは雛の「段飾り」を中心に多くの「吊し雛」が飾られている。中でも目を引くのは享保雛。かつては長崎の平戸藩所有のものだったという。
館内は天井から床に届く長い糸に多くの吊りものが付けられている。
色取りもさまざまで、裸ランプの照明に浮かぶその光景はまさに豪華絢爛である。
吊られているものは海のもの、野のもの、生活のものを中心に多種多様。一つずつ見て歩くと実に楽しい。
もとは親戚縁者のお祝いに使われたもので、縁起物が多く、それぞれに理由付けがある。例えば、
(俵ねずみ)金運・霊力があるとされ、子宝に恵まれ、働き者になる。
(柿)長寿の木と言われ、柿が赤くなれば医者が青くなる。
(座布団)座布団のまわりを赤ちゃんが這って遊び、上手に座れるように。
近くにある素盞嗚神社では参道の急な石段に雛を飾ってある。117段、378体と見応えがある。
河津桜は季語として定着しているようだが「吊し雛」はどうか。
「雛のつるし飾り」では長いし、他にも酒田市の「傘福」、柳川市の「さげもん」がある。