今月の秀句 棚山波朗抄出
「耕人集」2019年6月号 (会員作品)
あはあはと風にしたがふ柳かな深沢伊都子
たつぷりの日を孕みゐる蝌蚪の紐秋山淳一
灯台の丈に雲雀の鳴く夕べ中村宍粟
校庭に明治生れの大桜青木隆
玻璃戸開け春一番の埃受く寒河江靖子
鑑賞の手引 蟇目良雨
あはあはと風にしたがふ柳かな
柳は芽をようやく広げて透き通るほどの葉を付けたものを春の季題として楽しんだ。風のなすままに揺れ動く景色を作者は「あはあはと風にしたがふ」柳としてその軽やかさをつかみ取った。
たつぷりの日を孕みゐる蝌蚪の紐
蛙は目立たないように泥まみれの沼などに紐のように長い卵を産む。これを蝌蚪の紐という。水中にあるにもかかわらずたっぷりと日を孕んでいると見做した作者の観察力のよさが分かる句。
灯台の丈に雲雀の鳴く夕べ
景は単純明快。灯台の高さと同じところに夕雲雀がさえずっている。よく見かける光景である。「高さ」を「丈」と置き換えたことによって快いリズムを得ることが出来た。
校庭に明治生れの大桜
どんな学校だろうかと思いを巡らせる仕掛けのある句だ。藩校がそのまま学校に直ったなら江戸生まれの大桜と言わなければならない。明治生まれなら校舎も桜の木も同時がふさわしいだろう。とにかく桜の木を明治生まれと特定できたことも写生の一部である。
玻璃戸開け春一番の埃受く
春一番の温かい風は雪国の人にとってありがたいことがこの句からよく分かる。埃の舞う春一番であってもガラス戸を開けて家の中に迎え入れてあげることでその気持ちが良く分かる。
- 2021年3月●通巻500号
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