今月の秀句 蟇目良雨抄出
「耕人集」2021年4月号 (会員作品)

出羽富士の見え隠れして波の花池田春斗

小正月龍太を読みて甲斐に翔ぶ藤沼真侑美

鴨の陣群れなす鯉と交はらず安奈朝

ラファエロのブルーと思ふ春の空野村雅子

寒明の風や佳きこと有りさうな小林美智子

飴切りのリズムに乗りて初詣森安子

鑑賞の手引 蟇目良雨

出羽富士の見え隠れして波の花 
冬の日本海の風物詩に挙げられる波の花。礁の多い海岸でよく見られる波しぶきが泡状になって花びらのように空に舞う。掲句は出羽富士と呼ばれる鳥海山を隠すほどに噴き上げる波の花を一句にしたもの。豪快な出羽の景色になった。故郷で一番自慢したいものを描くと句に元気が乗り移るものだ。

小正月龍太を読みて甲斐に翔ぶ
 飯田龍太の書物や句集を読んでたまらずに龍太の故郷の甲斐に行ったことを一句にした。正月はあれこれ忙しく過ごさざるを得ないので、小正月になってようやくつかんだ休暇を利用して甲斐の国へ行ったのだが「翔ぶ」と表現したことで作者の喜び勇む気持ちがわかるようだ。

鴨の陣群れなす鯉と交はらず
 単なる写生句と思われがちだが、水面下のせめぎ合いが見て取れる。深い写生がある句と思う。

ラファエロのブルーと思ふ春の空
 イタリアルネッサンス時代の画家ラファエロの使うブルーに着目した句。ラファエロのブルーはエジプシャン・ブルーと呼ばれる独特の顔料を使用している。作者の審美眼に刺激されて出来た一句。

寒明の風や佳きこと有りさうな
 呟きのような一句。寒明けの風と限定したことで普遍性が出たと思う。

飴切りのリズムに乗りて初詣
 川崎大師の境内を進むと聞えて来る光景。心地よいリズムに誘われて初詣も遅滞なく進んだことだろう。