今月の秀句 蟇目良雨抄出
「耕人集」2022年4月号 (会員作品)

病む人につく嘘悲し福寿草野口栄子
 福寿草に悲しき出来事を組合せざるを得ない作者の苦悩が偲ばれる句。不治の病のことを正直に告げることが出来なかったのだろう。同時作<まじなひの焼葱母は首に巻く>は笑える。

初虹や友と傘寿を祝ひ合ふ小林美智子
 二十四節季に「虹初めて見る」とある。春初めて見る虹のこと。夏の虹より儚く消えそうだが見れば嬉しさもある。傘寿を迎えたささやかな喜びを友と祝うに相応しい。

不機嫌な夫へたつぷり玉子酒金井延子
 玉子酒は酒と卵黄で作る即席の風邪薬。アルコールを飛ばして作るが、少し残ることがある。不機嫌な夫に飲ませて早く寝かせ付ける作戦が少し思われる。同時作<春待つやもやしのひげ根取りながら>の、もやしの鬚根を題材にする挑戦が好ましい。

ラガーらのをかしな球を奪ひ合ふ島村若子
 ラグビーの試合を見れば、なんであんな摑みにくいボールを使うのかと訝しむだろう。転がる時もどの方向に曲がるか予測が付かない。しかしそのおかしなボールを奪い合うのがラグビーなのだ。

下萌やロゼット土を放ちつつ中村岷子
 草の芽が土から立ち上ると下萌だ。そんな時たんぽぽのロゼットも土から少し浮き上がり付着していた土をこぼす。まさに句の通り。同時作<親も子も講師も細る受験かな>塾や学校の先生が身を細くした所迄写生出来た。

元日のきれいに暮るる明日も晴林美沙子
 冬型の天候により太平洋側はよく晴れる。まして元日の晴天は格別である。正月の他の季語を使っても表現できただろうが、普段着の言葉で綴られた一句に素直に感動した。同時作<寒卵幸か不幸か黄身二つ>にも素直な驚きがある。

水面打つ尾に力あり寒の鯉原精一
 池の底に泥をかぶっているだけが寒の鯉ではないぞと作者は言う。寒さに負けずに泳ぐ鯉の尾鰭の力強さを一句に仕立てて説得力ある。

枝先につらなる小鳥日脚伸ぶ春木征子
 この句の小鳥は雀や目白などであろうか。枯枝に集まって日に温もっている様子が見える。見慣れた光景から「日脚伸ぶ」の季節感を確実に把握できたと思う。
 さて、「日脚伸ぶ」という季語は明治以降に出来たもので「冬至が過ぎれば日照時間が伸びて影は縮む」という科学的事実を人間の感覚に置き換えたものである。心の開放感にまで及び中々よい季語だと感心する。