観相の灯に浮く頰や春の宵
忍び音の伏流水や柳の芽
暖かや梯子で登る象の背
土の香や絵は満開の種袋
ぬるま湯のごとき夕暮れ蟇の声
番犬の素知らぬ振りや目借時
緑陰を囲ふ老樹の瘤だらけ
羹で過す一日や土用入り
上げ潮の川裏返る秋出水
つくばひに雲浮く朝や神の旅
糸杉の天指す野面秋深む
綿虫や薄き笑まひの伎芸天
秋冷の波の輝き浮灯台
そぞろ寒夜店の仮面仄明り
干足袋の軒に夕日の集まれり