眼の前は初富士の他何もなし
眼に力こめセシウムの春子捨つ
梅が香に墨の香重ね命名す
飾られてありぬ津波の形見雛
献体のうすき微笑み梅一枝
郭公のよく啼く畑仕事かな
夏痩せの人に夏痩せいたはらる
昭和生きてゐる八月のある限り
出撃の父の遺書読む終戦日
八月の空を映して被爆川
畑炎暑最後の水は分けて飲む
天高し仔牛は跳ねて糶上げる
華やぎて蕎麦刈る結ひの峡六戸
秋揚げの一団を乗せたらひ舟
十二月眠らぬ店が村に来る