奈良英子

作品抄

鵙啼きて神木の空ひきしまる

流木を挽きゐる蜑の冬支度

極月や屋敷祠の拭き掃除

雪襞のいよよ際立つ師走富士

  佐渡

毛の脚半重ね履きして牡蠣割女

竹垣の棕櫚縄ゆるび寒の明け

  佐渡

遠流の地巡りし夜や石蓴汁

詰め石の減りし蛇籠や鳥曇

  高幡不動

花の塵はらひ商ふござれ市

さみどりに背山ふくらむ穀雨かな

斑鳩や塔の裾まで豆の花

山裾に触れて雲行く橡の花

柿若葉仔牛臍の緒ぶら下げて

縄強く張りて畝引く芒種かな

青芝や馬の覆面干されをり

慈悲心鳥鉄鎖づたひの湯殿みち

立秋や鍬の楔を打ちなほし

蛸壺の転がる軒端虫の声

差し潮に藻の乗り来たる雁渡し

無患子の青き実密に深大寺