銚子沿線   坂下千枝子

北塞ぐポスター褪せし駅舎かな

蠟燭の絵文字とけゆく寺小春

石蕗の花海へ真向かふ芋銭の碑

鈍色の日矢わたつみへ開戦日

風力発電冬夕やけを広げけり

犬岩へ哭けよと一夜虎落笛

砂浜の冬草しかと踏ん張れり

入日影磯をけぶらす冬怒濤

煤掃や膝に戦禍の阿弥陀仏

奉納の醤油缶積み年用意

表札の下に船の名松飾る

初空へそよぐあまたの大漁旗

燈台の影ととのふる初日の出

初糶や鯛の躍れる間祝着

買初のぬれ煎餅を旅の苞

蠟梅の溶けだしさうな日差しかな

薄氷を回し光をまはしけり

大空へつんつん朴の芽吹きかな

喝采のごとく花壇の風車

耳聡くゐる初雲雀聴きてより

坂下千枝子→その人

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