早苗月   平賀寛子

ああ五月芽出しの風の軽やかに

浸されてはちきれさうな種袋

大空を仰げとばかりつばくらめ

耕しへ堆肥押し上ぐ一輪車

菜の花の海をローカル線走る

風薫るなか疾走の三輪車

緑雨かな荒鋤きの田の匂ひけり

畦川をかける瀬音や田水張る

下校子にこつぱみぢんの蝌蚪の紐

残照を均して終はる代田掻

腰だるき農夫の歩む代田べり

早苗月一気に眠り朝となる

早苗手に踏み出す一歩大よろけ

手伝ひの田植みごとな曲がりやう

汗どつと野良着の柄の浮き上がる

大小の足型残し田植終ふ

植田原苗より青き山映す

抜き足を泥の離さぬ田草取

田尻にも色深めをる余り苗

灌流の音のすずやか植田道 

平賀寛子→その人

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