自宅蘭室で

◆句歴 昭和15年秋声会の星野麦人(「木太刀」主宰)に師事。その後「南柯」、「沖」を経て昭和59年「春耕」入会。平成7年俳人協会幹事。句集『松例祭』『福藁』、共同執筆『俳句吟行の入門事典』『新編月別季寄せ』ほか。元「春耕」事務局長。平成28年11月20日死去享年92歳。

masumotokouyou

 

快晴と書きて始まる初日記 大川の潮の匂ひや福参り
下町に塗下駄を買ふ春隣
苔匂ふ政子の矢倉春時雨
春泥を帰る杜氏の荷の多き
仲見世の雨の参道花の片
賑やかな女の句会愛鳥日
新緑の女王の国へ妻とくる
海峡に烏賊火の増ゆる崎泊り
対岸に日射し残れる白雨かな
水うまき裾野の宿や新豆腐
雁鳴くや杉玉錆びし馬籠宿
豊年の風を通はす大鳥居
新米を積み華やげる通し土間
数へ日の石畳掃く寺男

 

春の夜の提灯ともす帯問屋
年古りて独語の多き遅き春
アトリエに近づいてくる祭笛
夏めくや昭和の匂う銀座裏
夏愉し絵を描くことも句作りも
声残し消え行く人や夏の霧
七夕の竹をもらひに菩提寺へ
温室へ入れば俄に秋蚊鳴く
月山へ一本道の大花野
点滴に黙して耐へる冬隣