柚口満

蘆舟の伊吹嶺目指し戻りけり

縄あまた投げて雪吊始まりぬ

夕星や輪をせばめつつ浮寝鳥

   武州御嶽山

狼の札貼る郷や冬の霧

大楠に日のたつぷりと初詣

桜鍋観音裏の風入れて

獅子舞の杉山の裾急ぎけり

民話聴く闇に太りし氷柱かな

夕星を増やし氷柱の太りけり

白魚の嵩の透きゐる四つ手網

祭見に茎立の畑横切れり

夢違観音に会ふさくら時

鈴蘭を卓に牧場の診療所

今年竹雨呼ぶ嵯峨となりにけり

竹林の明るき方へ梅雨の蝶

打水の仕舞ひは空に撒きにけり

打水に生るる夕風仏間まで

折りとりて秋草の影消えにけり

大壺の秋草どれも撓ひゐる

秋遍路磴の数だけ鈴ならす