古市文子
蓮の実の飛びつくしたる阿弥陀池
藩校の欅に沈む稲雀
遺跡掘る釣瓶落しの影曳きて
菰巻の松に始まる勿来関
寒蜆均らせば石の音したる
曳き売りのはみ出してゐる大海鼠
阿武隈の吹きつさらしの凍大根
鶏鳴の風に乗りたる春田打
束稲山の見ゆる高館青き踏む
春耕やひと鍬ごとに石拾ふ
花屑の浮きし閼伽水汲みにけり
芋植うるずり落ちさうな岬畑
鳥の巣を包み大楠茂りたる
ボタ山の影に踏み込み田を植うる
安達太良へ帯なしてゐる夏の霧
野馬追の来るを待たねで逝かれけり
麦焼きの匂ひまとひて通夜の客
新涼の水揺さぶりて鍬洗ふ
踊句碑夕かなかなに包まるる
稲雀どつと沈みてしまひけり