若水の桶に溢るる月明り
熊笹の白き縁取り寒に入る
藁苞の影の移ろふ寒牡丹
箱書の文字薄れゆく母の雛
百年の笑まひくづさず母の雛
春日野の鹿花屑を食みゐたり
張りつめて雨はじきゐる鉄線花
行く水に色を散らして花菖蒲
木洩れ日に揺るる草の秀糸とんぼ
小さき眼の動きづめなり目高の子
酔芙蓉目覚むる時の白極む
待宵の影やはらかに小笹揺る
母の忌の夕べを点す石蕗の花
堂守の箒目確か冬日差す
朝凪にひと筋の水脈海鼠舟