岩田諒

君ら無言秋声寄せて来るばかり

枯芝を刈りキャンパスを香らすよ

鴉飛んで嘴の光の淑気かな

今朝もまた懐炉を楯に家を出づ

淡雪や紅気まとへる木々の末

啓蟄やルーペの中の文字ゆたか

繋ぎたる腕ひろげて野火走る

急流を大曲りして落椿

幹の洞さくらの雨を滞めゐたり

散るさくら仏は千の手をひらく

たんぽぽの絮の球体こそ平和

月出るとささめきあへり白牡丹

白昼を切り裂きにけり瑠璃蛺蝶

道問うてまこと羽州の溽暑かな

蟬穴のとりまく聴禽書屋かな

化粧地蔵延命地蔵蟬時雨

鰯雲転法輪を風が繰る

月光にいま舞ひ上がれ展翅蝶

水の秋遠くに鉄扉閉まる音

竜淵に潜む山々膝そろへ