杉阪大和

青飛騨 

滝壺を見せぬ深山や飛騨も奥

ふるさとはいつも岳風夏あざみ

白南風や牧の起伏に牛沈み

久に摘む母の忌日の頃の蕗

彼の日より今も忘れず蝮の眼

島蛇の縞を卍に絡みをり

飛騨つ子のむらさきに川泳ぎ

鮎釣りの早瀬に杭のごと立てり

朝霧の動き出したる簗瀬かな

あやめ咲く廃村跡の外厨

青飛騨といふ産土に吾子と立つ

帰省して四肢遊ばせる村の川

なつかしき暗さ土蔵の涼しさに

夏炉燃ゆ簗に祀りし平家の祖

盆唄や今に変はらぬ嫁探し

ちちろ鳴く昼も闇なす蚕屋二階

飛騨谷は虫の声さへなだれけり

どぶろくを岳の夕日の落つるまで

猪除けの話もちきりにごり酒

千尋の谷に萱刈る白川郷