佐藤栄美(山形)

羽黒山四季

年明けの人だかりして巨大絵馬
巫女の歩や青き畳に淑気満つ
揚雲雀声落しゆく大鳥居
羽黒路は雨の匂ひやつばくらめ
鏡池三たび廻れり花神輿
爺杉にひびく拍手涼しかり
落し文拾ひこれより三の坂
千年の秘佛を包む河鹿笛
魔除綱泰山木の花高く
十薬の刈倒されて匂ひたつ
青葉木莬闇を深めて啼く羽黒
背負籠干す門前町や鵙日和
法螺貝や護摩火の猛る八朔祭
盗人萩つけて満願行者跳ぶ
神の旅東司の箒並べ吊る
陵に綿虫の舞ふ昼下り
雪折れの谺広がる南谷
松例祭闇に羽黒の天狗跳ぶ
年夜酒五升鍋より給はれり
除夜の鐘打つ山伏の高足駄

 

武田花果

厳島管絃祭

穴子飯買うて乗り込む渡し船
弘法の消えずの火なる夏炉守
暑に耐ふる痩身高き清盛像
平安の絵巻の如く渡御の海
大鳥居土用の雲へ仁王立ち
御洲掘の注連へ白南風豊かなる
差し潮に磯蟹潜る大鳥居
一閃の竜笛高く管絃祭
姫神の揺らせて移る神輿船
祭太鼓潮の豊かに満ち来たる
闇の濃き船渡御の道月昇る
月の波へ渾身の櫂揃ひけり
喝采に采振る童子夏満月
張り強き曳船の綱海祭
船祭火の粉鎮めの汐掛けて
千人の祭提灯揺らす闇
神官の顔仄と浮く船の御簾
管絃船歓声連れてまはりけり
月に鳴る還御の船の琵琶の音
平家納経金泥錆びぬ晩夏光