高井美智子
寒天製す
寒天の祖碑や八ヶ岳より雪の声
寒天の小屋に強ばる目貼かな
寒天煮る十石釜のがうがうと
大釜の火番独りや虎落笛
湯けぶりに揉まれ寒天造る真夜
寒天製す磯の香りの仏間まで
てぐさ噛み星噛む桶の厚氷
朝まだき寒天干し場人うごく
悴みて寒天干しの皆無口
寒天干す瀬音ま近に遠に聞き
雪晴の嶺々や風なき小昼時
雲垂れて干し寒天のひかり萎ゆ
北颪寒天干しのこゑ奪ふ
寒天の昏く凍てつく星の下
糸寒天風の尖りに干しあがる
寒天を干して眩しき村となる
大鷹のまつすぐ目差す社かな
干し干して重心失する角寒天
魚は氷にのぼり寒天小屋を閉づ
春遅々と水の目覚めのひびく川