阿波の藍 高井美智子
氾濫の記憶の畑や藍を蒔く
地酒足し藍玉ほぐす初桜
花の夜や藍甕に泡生まれつぐ
永き日を肘まで青く藍染師
日晒しの絹の藍染め風光る
藍商のうだつの空や燕飛ぶ
藍褪せし父祖の半被に春惜しむ
藍甕に衣揉む梅雨の手くらがり
藍汁の滲みし壁や送り梅雨
藍染めを絞る素早さ夏旺ん
藍染めの皺(しぼ)の涼しき阿波しじら
剣山けふは良く晴れ藍を刈る
葉藍干す炎暑の庭を隙間なく
川風をとほす藍倉守宮鳴く
吉野川の風に根をはる二番藍
染みの手を藍師くるりと阿波踊
藍寝床で藍の葉を発酵
秋暑し臭ひ渦巻く藍寝床
舟吊りし藍倉の軒小鳥来る
発酵の葉藍黒ずむ寒露かな
藍商の渡し場跡や螇蚸とぶ