無為の日の葉牡丹渦を解きたる
とどむ水とどまらぬ水春早し
あなたなる不器男の自筆冴返る
絵付師の庭のアスパラガスを摘む
山吹の小屋に着きたる一座かな
多佳子の忌レモンの花の咲き初めり
地震過ぎの駅舎に燕孵りしか
寄せ来ては返す波無き夜の秋
雑踏の西日の端に恋占女
献血を終へ踊子の顔となる
海見ゆるところ蓑虫糸垂らす
行灯の蠟燃え尽きて秋の声
初時雨油障子の灯のやはし
綿虫の舞ふ医学部の慰霊の碑
食前の祈りの長し虎落笛