蕗を摘む雨も緑の信濃かな
六月の森水底を行くごとし
触るる間もなく木苺のこぼれけり
夏霧の山なぞりゆく速さかな
山国の日をこぼさじと女郎花
秋澄むや嶺の奥にも嶺つらね
日の匂ひする草染めの毛糸編む
霜の庭薔薇の棘より解け始む
湖の冷え鼻にあり薬喰
冬の雉子隠るるもののなき野面
銀河凍つ森に獣を眠らせて
訪ね来し人春燈の影の中
すぐ風に流るる花の種を蒔く
昼ふかき森に声張る孕鹿
御柱光となりて天穿つ
前川みどりまえかわみどり
前川みどりまえかわみどり
◆略歴 平成元年「市ヶ谷句会」入会、棚山波朗に師事。平成3年「春耕」入会、皆川盤水に師事。平成23年「西馬音内」二十句にて春耕賞受賞。俳人協会会員。平成28年11月25日死去享年68歳。