藤房に触れて夫なきこと忘ず
隣席の声は父似や泥鰌鍋
思惟深き菩薩を堂に松手入
壬申の乱へこの道花の雨
惜秋や風によぢれる竜の水
茅の輪とれ水神の闇ふかまれり
もう誰の足にも触れぬ春炬燵
千年の屋根より雪解しづくかな
閻魔堂の闇にかなぶん死んだふり
谷戸秋意人に間近く鳥鳴けば
お降がりのやがて真白や五条坂
料峭や一指を頬に観世音
つゆけしや三島の稿の青インキ
靖国へ深き一礼鳥雲に
往還に志士の銅像萩凍つる