去年今年首にかけたる聴診器
初日の出病舎の玻璃戸磨き立つ
筆談の患者の指の初冬なる
幹裂けし欅大樹に冬芽立つ
晴れ渡る筑波嶺眩し初雲雀
地虫出づ余震のつづく崖の罅
春愁や潮騒とどく陸奥の宿
強東風や篁さやぐ芋銭の居
往診の果ててオリオン近づきぬ
通夜帰り筑波山にかかる天の川
介護士の大暑の水を飲みほせり
刈田あと河童の沼の大落暉
咳ひびく固き木椅子の診療所
介護士の見回る指の悴めり
小さき注連飾りてありぬ回復棟