武井まゆみ

   夏薊

島又島卯月波又卯月波

切支丹の島に湧き継ぐ夏の霧

夏つばめ五島石積む天守堂

一人守る島の教会日照草

昼顔やみな海を向くクルス墓

残鶯や拷問石の錆の色

船大工建てし教会風薫る

絵硝子は海より蒼し聖五月

片虹へ祈りを捧げ渡舟守

新緑や船より拝す桐教会

在りし日を語りし尼僧柿の花

耶蘇の島どの道往くも夏薊

五右衛門風呂の小屋半開き浜薄暑

忍冬や入江深くに聴くオラショ

庭先に天草を干し耶蘇の裔

守り継ぐ木の教会や花南瓜

夏の蝶牢屋の窄(さこ)へ影曳けり

若葉雨いつしか揃ふ朝の弥撒

花樗祈りの島は雨の中

殉教の島遠のくや走り梅雨