平成29年11月21日(火)、府中句会の有志十名で自然教育園を吟行した。JR目黒駅東口に午前10時に集合、小春日のなか街道の銀杏黄葉を見ながら徒歩7分で到着する。
自然教育園の歴史は室町時代の豪族の館から始まり、江戸時代は徳川光圀の兄にあたる高松藩松平頼重の下屋敷、明治時代は陸海軍の火薬庫、大正時代には白金御料地になっている。この間、一般人は立ち入ることが出来なかったため都心ではまれに見る豊かな自然が残されている。広さは東京ドーム四つ分である。
昭和24年に文部省所管となり「天然記念物および史跡」に指定され一般公開、昭和37年国立科学博物館付属自然教育園として、自然教育学習の場また都民のオアシスの場として広く親しまれている。
入園料は一般310円で、65歳以上と高校生以下は無料である。入口近くの広場では小学四年生の団体が自然学習で先生の話に熱心にメモを取っている。
我々はこの時期の「見頃情報(11月16日号)テーマ〝赤い実を探そう〟」のプリントを頂きそれをもとにコースを決めて自由散策とする。
〈路傍植物園から館跡、水鳥の池へ〉
土塁に沿う道の両側の野草はみな花から実へ、そして枯れ初めているが、高野箒と野あざみは淡い紫の小花をつけている。赤い実をつけ倒れ伏すムサシアブミ、千両の群生、種を飛ばした後の姥百合、ヤブミョウガ、錦木等々。土塁の上に立つスダ椎の大木、真紅の房状の実をつけた飯桐を仰ぎ、その実を拾う。
一匹のコバネイナゴを捕まえたがすぐに枯草に逃がしてやる。館跡の周りは手つかずの自然林だ。鵯や鵙の声が響く。ウルシ紅葉が冬日に映える。すぐそばの水鳥の池やイモリの池は山陰のためか鈍色で鳥の姿はない。しばらく佇むが足元から冷えてくる。
〈武蔵野植物園から森の小径、水生植物園へ〉
武蔵野の雑木林に生育する山野草は春蘭を残し枯れ急いでいたが、「赤冬の花わらび」だけは今を盛りと薄紅の花穂を立てていた。森の小径には樹齢三百年の「大蛇(おろち)の松」が、またひょうたん池の傍には「物語の松」があり三百年を生き続けた貫禄と黒龍のごとき姿を見せている。高松藩下屋敷の庭にあったものである。さらに赤い実の木が多数ある。紅葉も格別だが、ここでも飯桐の大木が目につく。この森には十本以上の飯桐があると言われている。葉を落とし赤い実だけを残すものもある。木肌に触れてみると滑らかで意外としっとりしている。
小径を行くと水生植物園だ。蒲の穂の群生、枯れ芒、榛の木には実をつけた忍冬が巻きついている。魚は姿を見せないが時折水輪が光る。池畔のベンチで休み一句投句して吟行を終了する。2時間の予定が3時間となったが、駅前のイタリアレストランで昼食をとりながら和気藹々と本日の吟行会の総括をした。
〈吟行で見つけた赤い実の木〉
飯桐 さるとりいばら ムサシアブミ 野いばら 錦木 まゆみ 真葛 ガマズミ 千両 万両 やぶこうじ 南天 花みずき
(報告 柿谷妙子)
当日句から
すだ椎の空を切りさく鵙の声妙子
日のきらり池の面走る神渡し美智恵
蒼天に大樹の落葉降り止まず喜子
空真青きらめき揺るる枯芒由志美
隠沼の水面耀ふ小春かな徹
飯桐の空に房なす実が眩し富彦
錦木の実の乾涸びて小六月洋子
リュック背に赤い実提げて冬日差知子
日にあればかがやきませる冬紅葉宏
千草香る植物園の小春かな節子