師走半ばの、12月16日(土)、東京から三人の句友をお迎えし、こちらの二人を加え冬枯の松本の山間の吟行を行いました。天候に恵まれ、オラホの常念岳をはじめ、日本アルプスの雪の連峰を見ながら、山麓を巡りました。
 まず最初に、松本平開削伝説の泉小太郎の「竜」のりりしいモニュメントに立ち寄りました。この泉小太郎は母竜と力を合わせて、大きな湖だったこの地を肥沃な農地にしようと、山を崩し川を作り平野にした、という伝説が語り継がれています。

 それから近くの田用水の溜池「生妻(しょうづま)池」へと向かいました。水を満々と湛えたこの池には、多くの鴨が飛来しおり、いくつもの鴨の陣ができて、群れごとに行動している様子が見て取れ、その内の一群が湖面を掠めるように飛翔する様子が感動的でした。また、湖畔に「さいかち」の大木があり、木の周囲には、独特のねじれたくろがねのようなさやが沢山落ちており、このさやを振ると中の種が、かさかさと鳴り冬の音を聞くようでした。

 さらに車で少し上り、なだらかな丘が連なる田園風情豊かな中の楽都松本のヴァイオリン職人の「弦楽器いづつ」を尋ねました。ここはヴァイオリン製作60年という井筒信一さんの工房であり、一本ずつ手作りのヴァイオリンの音色は日本でも有数のものです。
 薪ストーブの柔らかい暖房に迎えられた工房の中は、大小の鉋をはじめとする種々の工具や、作りかけのヴァイオリンの部材が所狭しと置かれており、電熱器にはにかわが煮立っていました。ここでヴァイオリン作りの苦労話などを伺いながら、信州のお葉漬(野沢菜漬)と、家内が用意した冬豆南瓜(小豆入り南瓜団子)でお茶をいただきながら過ごし、雪のアルプスを遠望し、周囲の田の麦のかすかな緑色の芽吹きを車窓に見ながら、昼食会場へ向かいました。
 午後は季楽会の他のメンバーを加えて、定例の会場である寿公民館においての句会となりました。(報告 百瀬信之)

当日句
冬麗の川瀬に拾ふ山の音文男
穂袈みな放ちし後やすすき川ひとし
賄ひは冬至南南瓜と野沢漬 
閉鎖せしスケート場の初氷浩一
鍬休め冬木の声を風に聞く美智子
暮色沁む岩に溜まる冬の蝶千佳子
過ぎ行けど過ぎ行けどまた紅葉山千春
畦道のなりに曲がりて麦芽ぐむ信之