11月12日(土)多摩地区の春耕俳句会の有志12名が東京都青梅市の御岳渓谷の吟行を行った。私はJR国分寺駅から中央線に乗車したが、電車内は大きなリュックを持った老若男女で満員である。立川駅経由で青梅駅へ、更に乗り換えて集合場所の沢井駅にいく。鄙びた駅だが、駅前の満天星躑躅が真っ赤に紅葉し我々を迎えてくれた。天候は蒼天のこれ以上望めないという絶好の小春日和である。

 歩いて小澤酒造に行く。醸造所内の最初の建物は日本家屋で茅葺の兜屋根が美しい。敷地の奥に行くと元禄時代に建てられた元禄酒蔵があり、その正面の門口上に大きな酒林がある。色は大分茶色になっている。辺りに麴の甘い香りが漂う。

 地下道を通って飲酒や食事が楽しめる小澤酒造経営の澤乃井園にいく。利酒ができるとのことで一同張り切る。私は一杯二百円の新走りを頂いた。本来下戸なのに美味しく喉を通る。その使った猪口は御土産に呉れる。

 ほろ酔い気分で紅葉・黄葉のなか多摩川の上流に向かい御岳渓谷遊歩道を進む。対岸の寒山寺(中国蘇州の寒山寺にちなんで昭和5年に建立)に行くため吊橋の楓橋を渡っている時、川の岩の上に大きな白鷺を見つける。その場所が好きなのかじっとして動かない。しかし一艘のカヌーが近づくと白鷺は悠然と飛び立った。

 橋を渡ると寒山寺の鐘楼がある。皆さん思い思いに鐘を撞くと、鐘の音が渓谷に響き渡っていく。寒山寺には長い石段を登っていくが利酒の一杯が効いてきて少し苦しい。堂内の格天井が美しく我々を迎えてくれる。

 また楓橋を渡り元の場所に戻る。遊歩道をさらに上流に向かうと白秋歌碑と朝倉文夫作の青年の像がある。しばらく進むと笹鳴きが聞こえる。川の流れの音よりも大きくかつ鋭く、はっきりと聞こえる。皆で「どこにいる?」「どこだ」と言って、鶯を目で探すが見つからない。

 更に上流に進むと、川の色が変わってきた。薄い緑色を帯びている。また早瀬の中に大きな岩が数多あり、水がぶつかって白波が立っている。渓谷は青空や常緑樹の山々を背に紅葉がひと際美しい。皆で歓声を上げる。

 玉堂美術館に着いた。いうまでもなく日本画の巨匠である川合玉堂の美術館である。玉堂はこの地を愛し、この地にアトリエを持ち、住居を構えた。絵画を堪能し最終目的の句会場である御岳交流センターに向かう。御岳交流センターは平成26年に建立された瀟洒な建物で、御岳渓谷の眺望がすばらしい。

 句会は五句出しの五句選で行い、選のうちの一句を特選とする様式とした。各自が特選とした理由を述べ、最後に岡村實氏が、全句について解説と句の添削を簡潔に述べられた。それが大変勉強になった。

 会場手配、下見、資料作成等幹事の萩原まさこさん、勝股あきをさんには大変お世話になった。句会が終わり、全員が「最高の吟行であった」と口々に述べ、散会した。(報告 松島徹)

当日句より
鰐口の短き音や冬に入るあきを
鐘一打余韻の落つる冬の川京子
寒禽の声を寄せあふ玉堂径 
靴音に弾む吊橋渓紅葉敏江
撞く鐘の天女の笑まふ小春かな利子
奇岩抜けカヌー走らす紅葉谷富彦
蔵出し酒舌にぴりりと神の留守 
蒼天に抜くる鐘の音冬紅葉まさこ
吊橋に佇つやもみぢの宙の中 
川照りに透けて色増す冬紅葉吉和
小春日の鐘の音渓へ寒山寺由志美
合唱の山の杉の子冬ぬくし階子