繭玉の部屋開け放つ遠野晴
初漁の父の背に打つ切火かな
緋袴に桜の風の觸れにけり
風呂敷のはらりと解けて桜餅
初蝶の宙の広さに戸惑へり
螢火の一つは草にしづもれり
肺蒼くなるまで緑の風を吸ふ
巣燕に大きな空のありにけり
更衣幾度たたむ母のもの
阿蘇赤牛茅花流しの野に放つ
鮎落ちて大河は黙を貫けり
淡海いま崩れし魞の秋の色
友禅の上を紅葉の流れけり
烈風の空に高鳴る枯柏
寒月や瀬戸の島じま隠れなし
乾佐知子いぬいさちこ
乾佐知子いぬいさちこ
◆略歴 平成4年「春耕」入会。皆川盤水に師事。後に棚山波朗の指導を受け現在に至る。平成6年「春耕」同人。「東京ふうが」会員。俳人協会会員。第四十四回全国俳句大会秀逸賞受賞。句集『藻の花』