『菊坂だより(蟇目良雨句集)』に沿い菊坂界隈を12名で出版記念吟行をいたしました。9月、秋とはいえ気温は30度を超える暑い日でした。
 まず樋口一葉終焉の地、本郷丸山福山町。現在は白山通りに面する紳士服のチェーン店となっています。史跡には平塚らいてふ書による文学碑が建てられています。幼少期は家庭的にも経済的にも恵まれていましたが、父の病死からは生活は苦しく住居を転々としたあと最後は本郷に戻り終の棲家となりました。
 2年6カ月の間に名作「おほつごもり」「たけくらべ」「にごりえ」「十三夜」などを生みました。
 一葉終焉の地より菊坂に向かいます。登り始めるとすぐに「伊勢屋」という一葉がしばしば通ったと言われる質屋がほぼ当時のままに残されています。

 その坂を少し上りうっかりすると通り過ぎてしまいそうな細い路地を入ると一葉の旧居の跡です。その一角はタイムスリップをしたような当時のままの家並が軒を連ね静かなものでした。当時のポンプ井戸も残っており、押すと今も水が溢れます。一葉の住んでいた家は建て替えられてはいますが今も人が住んでおられます。当時のままと思われる急な石段の脇には木造三階建てのアパート。その辺りは今とは違った不思議な空間が広がっています。昼食をとったお店越後屋も創業明治10年とあり一葉の5歳の時からのものでお店も又感慨深いものでした。昼食を取りながらの蟇目さんのお話も興味深く楽しいものでした。
 今回の吟行は『菊坂だより』出版をお祝いし、菊坂をほんの少し巡ってみただけですが、東大に近い事もあり他にも多くの文豪が住んでいたところです。またの機会に表示を辿りゆっくり歩いてみたいと思いました。                       (報告 河村綾子)

 

当日句
菊坂の空のとぼしや雁渡し良雨
しじみ蝶一葉ポンプの井戸軋む佐知子
一葉の旧居の井戸や鳳仙花富彦
格子戸の木目さやけし質屋跡知子
明治の世偲ぶ菊坂小鳥来る静雄
秋日澄む質蔵にある明治の香瑛子
菊坂の煎り豆の香に秋惜しむ綾子
江戸よりの井を繋ぎをり涼新た征子
行き止まる路地のポンプ井秋風鈴洋子
路地裏に疲れのみゆる秋すだれ 
雁渡る文豪住みし菊坂に久枝
一葉の古井を汲めば水澄めり英子
ガーシュインの曲にコスモス揺れやまず貞子
雁渡しウーパールーパー水槽に芳子
帽振つて帰燕見送る航海士大林子
海老色の朝顔を買ふ鬼子母神まさみ