桜の蕾が解れかかる3月24日、京王線北野駅からバスに乗り、八王子市の東南部多摩丘陵の一角に位置する「絹の道」の吟行に参加した。地名の由来は、幕末から明治にかけて隆盛を極めた生糸貿易の荷駄が、横浜へ向けこの道を頻繁に往来したことからきている。
この地に詳しい奈良英子先生から「句材が溢れているので焦点を絞るように」とのご教示を受け、木漏れ日の中、淡い芽吹きの山路を進み山頂の鎮守の社跡に到着。測量地の三角点からは春霞に広がる住宅群が望まれた。鶯や小綬鶏の囀る境内には、子抱地蔵や怪しげな獣の足跡がくっきり。句友も作句に余念がない。
絹の道の両脇は 黒文字、多摩の寒葵、地獄の釜の蓋(キランソウ)など珍しい植物に溢れている。ひと一人がやっと通れる獣道を抜けると、そこには里山の原風景が広がっていた。雑木山に囲まれた通称「嫁入り谷戸」の清流では芥子菜や鍬が洗われていた。棚田や段々畑の跡地には踊子草、犬ふぐり、野蒜、仏の座、薺など春満載の光景が。
句会場は「絹の道資料館」。友人の黒髪に揺れる木五倍子の花、花盗人や禁断の恋など自由で豊かな感覚の句が詠まれ、改めて吟行の楽しさを味わった。梅の花の舞い散る資料館の庭のベンチで、各自が選んだ特選句の感想を述べ合い、充実した春の一日を終えた。(報告 平照子)
当日句
春なれや身ほとり抜ける草木の香英子
木苺の咲き坂がかる絹の道まさこ
風這うて薺花咲く谷戸の道博
桃の花手折りて乙女ごころかな和世
小流れの音円やかに芹の花肖
花きぶし梳きたる風に雲流る階子
せせらぎを聞く里山や風光る幸
倒木の根つこに小さき芽吹きあり照子
野蒜摘む今宵の酒はうまからむ克子
小綬鶏の不意の鳴き声瀬音断つ郁朗
小流れにすすぐ芥子菜かぐはしき高司
音たてて細き流れや芹育つ佳子
幣辛夷雲の流れへとけ入りぬ美智子