開花宣言後の急な冷え込みに、花も縮み上がっていたが、この日だけはと言うような暖かな好天に恵まれた平成29年3月30日、行いの良いと思われる津之守坂句会の一行は、両国駅から周辺の吟行に出発。

 はじめに隅田川の河畔散策路へ。護岸の壁の江戸錦絵図や、大相撲に関連した絵などを一枚ずつゆっくり鑑賞しながら下流へと歩く。隅田川には桜見物の当て外れと思われる屋形船が何艘も行き来しており、まだ昼過ぎなのに既に盛り上がっている船も。

 次いで回向院へ。勧進相撲を始めた場所として両国=相撲という因縁の地である。時季外れのせいか境内は閑散。本殿の中は薄暗いが、荘厳な阿弥陀仏像のほか、涅槃会図が掛かっていた。境内の鼠小僧次郎吉の墓は、削って持ち帰るとご利益があるとのこと。ただし、お墓本体を削られては困るので、手前に削り専用の石が置いてあり、かなり小さくなっていた。

 回向院から吉良邸跡へ向かう。街角に現存する吉良邸跡は本来の屋敷の八十分の一の小ささという。上野介の像と、真偽の程は不明だが、首洗いの井戸がある程度の狭い空間である。ここでは吉良は大変良い人で、むしろ浅野内匠頭の方が狂気の人だったという話が出て、これも供養になったか。それにしても闘争のあとの雪中を、ここから永代橋を渡り泉岳寺まで歩いた浪士達は凄いと感心する。

 次に洋酔先生が招待券を入手された本日のメインの「すみだ葛飾北斎美術館」へ。富岳三十六景をはじめ北斎の風景の緻密で繊細な絵、そして一方で大首絵などの大胆な構図の作品などをじっくり鑑賞。まさに心洗われるひと時であった。

 〆は両国なので当然「ちゃんこ鍋」。あいにく中国からの団体と遭遇してしまい、マイクまで使う喧騒の中、鍋を前に何とか句会をする事が出来た。おいしい「ちゃんこ鍋」で腹を満たしたことも含め、まことに充実した一日であった。(報告 小林休魚)

当日句より

吉良邸の跡のわびしき春の昼洋酔
大川端の相撲の絵図や春爛漫和子
泣くごとく水子地蔵のかざぐるま休魚
青柳や吉良様小さく祀らるる黎子
涅槃図に入らぬ鯨潮吹けり美保
春光の滴と散りし川面かなあかね
訪ねたる江戸の面影春うらら智子
義太夫の墓前に回向竹の秋無犀