「耕人集」 11月号 感想 高井美智子
咲き揃ふ子らの朝顔参観日河内正孝
小学校の低学年では朝顔の種を鉢に蒔き、咲くまで観察をする。水をやり、理科の授業では二葉や莟の絵を描いたり、ノートパソコン等で撮影などもする。いよいよ参観日が近づいてくると、朝顔は咲くのだろうかと不安であったが、なんと参観日に咲き揃った。子ども達は鉢のところまでお母さんを案内している。参観日の微笑ましい光景が想像でき、生き生きとしている。
小流れのしぶきに揺れて赤まんま居相みな子
赤まんまはタデ科の植物で一年草。野原や畦などに生えており、親しみのわく雑草である。赤まんまが小径から食みだして、小流れのしぶきに揺れると鮮やかな赤となる。見落としそうな赤まんまを見逃さず、最も美しく咲く頃を詠いあげている。
習はしを子にも孫にも盆支度岡本利恵子
最近は核家族化が進み、掲句のような光景を見ることも少なくなった。盆仕度は迎え火から始まって、胡瓜や茄子で精霊馬を飾る等様々な準備がある。それぞれの家で独自の習わしもある。孫や子どもに教えながら、仏の供養をしている景である。このようにゆったりとした時間を共有できる家族は、貴重に思えるこの頃である。
神島の久高(くだか)の空や鷹柱玉城玉常
神の島と言われている久高島は、沖縄本島南部東海岸に位置する離島で、琉球民族発祥の地と言われている。琉球神道において祭祀を行う御 嶽(うたき)や、史跡が多数残されている。神話や秘儀が伝承されていて、神の島と呼ばれ、年間で30余の祭祀が行われているという。
この神聖な神の島の上昇気流に乗って鷹が旋回しながら上昇している鷹柱に遭遇した。島の壮大な景色と季語の「鷹柱」の取り合わせによる二物衝撃の句である。
秋暑しひやりと胸のレントゲン浅田哲朗
今年の秋は暑かったが、胸のレントゲンを撮る時は、ひやりと感じたという微妙な肌感覚をよくぞ捉えたと感心した。レントゲン結果の不安感が、「ひやり」の一言から推測できる。無機質な物が体に触れた時の違和感も伝わってくる。
残る葉に見え隠れして鵙の贄石橋紀美子
鵙は昆虫や蛙などを捕らえると、それをとがった木の枝などに刺し蓄える。これを鵙の贄と呼ぶ。この鵙の贄が葉裏の見つけづらいところに隠されていた。かなり知能が高い鵙のようだ。どのような昆虫を隠しているのだろうかと想像が広がってくる。
村を捨て出て行く人や秋出水結城光吉
「村を捨て」と言い切っている上五が身につまされる。村を出て行く人も悩み抜き、やっと決心を固めたことだろう。折しも秋出水で、道には泥水が溢れている。便利な住みやすい場所へ移り住むのだという決心が、鈍らないような容赦なき秋出水である。「秋出水」の季語が「村を捨てる」という非常な選択と響き合っている。
赤とんぼ夕日をのせてホバリング金澤八寿子
赤とんぼは空中の同じ場所で、翅を細かく動かしていることがある。まるでヘリコプターのホバリングのようだと省略を利かせた比喩の句である。夕日に染まった翅は輝きを増し、見とれてしまったようだ。中七の「夕日をのせて」は、作者独自の発見から生み出された表現である。
手造りの花瓶の歪み長崎忌石川敏子
手造りの温もりのある花瓶をとても大切にしているようだ。普段は手造りの花瓶の歪みに合わせて花を活けており愛着を感じていた。長崎忌の今日は一際暑く、花瓶の歪みも普段より強く感じられる。花を活けてもすぐに枯れてしまいそうである。長崎忌の祈りのひと日はいろんな物が特別に見える。もし今原爆が投下されたら、どうなるのかと誰しも一瞬頭を過る。このような不安感が「花瓶の歪み」の措辞に投影されているようである。
蕎麦咲きて母の在所の美しき古屋美智子
蕎麦を育てるには山辺の水はけの良い土地が適している。種蒔きから収穫迄の期間が2か月半であり、台風などの被害を回避できる利点もある。蕎麦が咲く頃は、空気も澄みそちこちに秋の草花が溢れている。下五の「美しき」の措辞により、真っ白な蕎麦の花が咲き満ちているお母さんの在所が髣髴とさせられる。
この蕎麦畑を通り抜けて、お母さんに会いに行く嬉しさの溢れた句である。
足音に育てられたる糸瓜棚平良幹子
糸瓜棚の脇は家族の通り道となっているようだ。出勤や登校や学校帰りやお出かけなど家族の足音は様々である。この足音に育てられていると面白い角度から捉えたところが素晴らしい。
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