「耕人集」 8月号 感想                          高井美智子

大西日五万に余る石窟像川名章子
 中国の山西省大同市に1キロメートルに渡る石窟があり、「雲崗石窟(うんこうっせっくつ)」としてユネスコの世界遺産に登録されている。石彫仏像は5万余にのぼり、インドや中央アジアの芸術要素のみならず、ギリシャやローマの建築スタイル、装飾模様などが融合されている。
 大西日の季語により、石窟の仏像に圧倒されている様子が伝わってくる。

あめんぼう固まつて空揺らすなり新田順子

 あめんぼうは水面の平らを崩すことなく、水面をすいすいと移動する。ところが、あめんぼうが集まって動きだすと水面が揺らぎ、水面に映っていた空を大きく揺らした。この些細な変化を見事な観察力で発見し、空の広さに視点を向けて、大きな景を生み出している。

弾痕の城壁高し夏の蝶玉城玉常

   首里城の旧中城御殿は琉球王国の王の邸宅であったが、沖縄戦で御殿は炎上し弾痕のある高い石垣だけが残っている。数多の弾痕は戦争の激しさを物語っているが、平和を祈るかのように夏の蝶が城壁を舞い上がった。

白日の下マヌカンの更衣木原洋子

 真昼間に人目のつく店先で、堂々とマヌカンの更衣を行っている光景である。「白日の下に晒す」という慣用語を一部取り入れることにより、俳諧味のある句に仕上がった。
虞美人草出掛けの母に雨上がる鈴木さつき
雨もあがり、久しぶりにお出掛けのお母様は薄化粧をしてうきうきとしている。虞美人草の季語により、どんな人と会うのだろうかと想像が膨らんでくる。先師皆川盤水は季語が全体の60パーセントを占めると言っておられたが、なるほどと頷ける。

藁苞に溢れしデーツ夏旺ん 加藤くるみ

    デーツは砂漠地域等で生産され、最大の生産地はエジプトだ。ナツメヤシと呼ばれるヤシの一種の小さな果実で甘みが強く、中東諸国では日常的に食べられている。砂漠地帯のある街の旅行先で、編み込まれた温もりのある藁苞に溢れるように売られていた。珍しい果物に遭遇するのも旅の楽しみの一つである。中東諸国を想像できる「夏旺ん」の季語がしっかりと下五に座り、句全体を引き締めている。

設計図通りにいかぬくもの糸佐藤和子

    蜘蛛の囲にも設計図があるとは、面白い観点から詠んでいる。突然の風などにより設計図通りにできない蜘蛛を、応援している作者のまなざしも窺える。

茉莉花の散れど余力の香を放つ平良幹子

    茉莉花(まつりか)は、一日で散るが、散った花の香りに濁りがない。この香りを「余力の香」と言う独自の素晴らしい措辞で讃えている。