「耕人集」 10月号 感想                          高井美智子

水鉄砲逃げる子の背へ滅多打ち伊藤宏亮
 水鉄砲は最初は真っ正面から撃ち合うが、やがて行動範囲が広がり逃げる子の背中を攻撃する。下五の「滅多打ち」の措辞が臨場感に溢れている。昔は竹筒の手造り水鉄砲だったが、今はカラフルで種類も多い。

でで虫は水琴窟の音が好き山下善久
 水琴窟の音に、でで虫がうっとりと聞きいっている様を擬人化して「水琴窟の音が好き」と言い切ったところが滑稽である。
 人間の音を聞く器官の蝸牛(かぎゅう)は、ぐるぐるとかたつむりの形をしており、このことも連想させられる技の利いた句である。

蟬しぐれ神棲む山を包みけり寒河江靖子
 蟬時雨は山全体から湧き出るように鳴くが、神が棲む山の蟬しぐれはさぞかし荘厳なことであろう。下五の「包みけり」の表現により、蟬しぐれが神聖な山を守っているかのようである。

我も又雑草かとも草むしり古屋美智子
 小さく屈んで一心に草と向き合って草むしりをしていると、草と土に同化している錯覚におちいる。まるで自分は雑草の一部のように思え、広い地球の中の小さな自分を意識する瞬間がある。この不思議な感覚を背伸びをせずにうまく言い当てている。

潮風がクーラー代り我が古家桑島三枝子
 今年は何度も日本の広域に熱中症特別警戒アラートが発令され、逃げ場のないような危険を孕んだ暑さで、クーラーが頼りの日々であった。潮風で涼しさを味わえる家があるとは、うらやましい限りである。古い家は、ずしりとした屋根瓦と木造でより涼しさが味わえるようである。

辛口のカレーに七味振る極暑浅田哲朗
 極暑のまっ只中では、食べ物にも変化が現れる。辛口のカレーでは物足りず、更に七味を振りかけた。この辛さでやっと暑さに対抗できる体になったように思えた。

窓灯り今宵の守宮子を連れて一葉ひとは
 毎晩窓灯りに守宮が出現するが、今宵は子を連れてきた。親子で仲良く窓に張りついている。守宮の子の目は、警戒心もなくきょとんとして愛らしい。
 毎年守宮が出没するのを楽しみにしている作者の生活ぶりが窺える。

大花火天頂めざし星めざし谷内田竹子
 作者がお住いの長岡花火大会は、80年前の空襲の焼跡の復興祈願と空襲で亡くなられた方達への慰霊として始まった。花火は広々とした信濃川と河川敷の夜空を存分に使い、天高く打ち上げてもまわりに危害を及ぼさない。この条件の揃った信濃川での打ち上げ花火は高々と上がるので、「天頂めざし星めざし」の句が生まれたのである。