「耕人集」 7月号 感想                          高井美智子

茹で卵つるりと剝けし立夏かな岩波幸
 茹で卵は上手く剝けないことが多いが、今日はつるりと剝けて大成功である。サラダの盛り付けも涼しそうな出来映えとなった。立夏という季語により、潑剌とした生活の営みがうかがえる。

ホイッスル響く校庭辛夷咲く村上啓子

 辛夷が咲く頃は寒さから解放された校庭で子供達が走り回る。大勢の子供達へ合図を送るホイッスルの音が響き渡っている。

春の丘ころがつて来る子等の声竹越登志

 春の丘で愉しく遊んでいる子や丘から駆け降りる子等の様子を声に絞り込んで詠いあげている。「ころがって来る子等の声」という表現により、春の喜びに満ちた句となった。

田を駆ける雉の頭は真つ赤なり十河公比古

 雉の雄が田を駆けている。繁殖期の雄は赤い肉腫が肥大するが、その特徴を捉え「頭は真つ赤なり」と省略を利かせた表現が素晴しい。

退屈を灰でならして昭和の日佐々木加代子

 退屈な時間を何をするでもなく灰をならしている。こんな生活の一齣を切り取り、俳諧味あふれる句となった。「昭和の日」の季語により、ゆったりと時間が流れていた昭和を思い起こさせてくれる。

春愉しロボット運ぶパスタ来る石井淑子

 テーブルに食事を正確に運んできた愛らしいロボットに思わず声をかける。パスタが大好きな子の入学の御祝で集まったのかもしれない。子供を囲んだ愉しい春のひとときである。

山藤の大樹にすがり咲きのぼる高瀬栄子

 山藤は大樹を容赦なく覆うように咲いている。この情景を独自の感性で写生を深め、「大樹にすがり」と表現したユニークな作品である。

行く春や正子の書斎そのままに日置祥子

 正子とは白州正子であろう。白洲次郎白洲正子の旧邸「武相荘」が東京都町田市の鶴川にある。今にも正子が現れそうな書斎が残されており、膝掛けもそのままである。開かれた北窓から小鳥の声が聞こえる。「行く春や」の季語により、正子に思いを馳せている様子が察せられる、

のびのびと蘭亭序書く清和かな浅田哲朗

 「蘭亭序」は、王羲之が詩会の様子をまとめて行書で書いた最も有名な作品である。王羲之の行書の技術が絶妙に表現されており、流れるような美しさと躍動感が特徴である。
 「蘭亭序」を清書している作者は、王羲之の筆使いのようにのびのびと書いている。清和の季語により、まわりの空気感も想像でき、広がりのある句となった。