はいかい万華鏡(12)
─ 危機に際して ─
蟇目良雨
私がこの欄を使って拙い個人記録を書き連ねているのには訳がある。
「春耕」を創刊された皆川盤水先生は春耕誌に日録を書き、更に常々幼少期からの思い出話を書いたり語ったりしてくれた。そのお陰で私たちは皆川盤水論を書き、盤水先生の生きた時代の俳句世界を生き生きと論じることが出来たのである。
俳人は風土、産土に育てられると言われる。「皆川盤水のいわき」それがはっきりしているのは盤水先生が書き残された資料が自然と物語ってくれるからだ。
今後もこの頁で私のささやかな履歴を書き続けるが、それは無駄な時間を費やさずに私の生きた時代を知って欲しいからだ。
私には本当の古里と言うものが無い気がしていつも寂しさを感じている。生れた埼玉県東松山が古里なのだろうが、幼い時の朧げな記憶しか残っていないので古里と呼ぶには余りに弱弱しいのである。この町は父が仕事の関係で流れ着いてきたところなのである。父は自虐して自らを「風来記者」と呼んでいた。大手新聞社の地方回りの新聞記者として一生を過ごした。父にとっても悲哀の多い人生だったに違いない。
転々と各地を移り住んだため、住んだ土地の生活が数年と短かったために私には生涯の友といえる者がいない。古里を持つ人を羨ましく思うのはこんな理由による。
バガボンドとして生きたために私には虚無的な所がある。私の真の古里は春耕だと思うようになってきたこの頃である。
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戦後80年を経過した私たちの年代にはもう戦争を体験した人はいないと思う。普段の生活に何かしら不満があるとしても、戦場へ行かされるような危険は今の日本には無い。
文明国といわれるアメリカには銃や暴力の危機がすぐ身辺にある。中国などは物言えば唇寒き現状である。私たちは恵まれた環境で生活をしているのだがそれに気が付かないだけだ。
ウクライナ国民の不条理に苦しむ現状に較べれば彼らには申し訳ないほど私達は幸せである。
さて、春耕は今財政改革中にある。それは会員の減少に気が付かずに昔通りに優美な雑誌を作り続けたことによって赤字に陥ってしまったのである。危機といえば危機だが、赤字を解消すれば解決することなので私は余り大変と思っていない。心配してくれた仲間が早速「春耕財政改革委員会」を結成し大勢の皆さんから解決策が寄せられている。少しずつ改革して行けば赤字は解消できる筈だ。暫くの間、皆様にはご協力を願いし、ご辛抱していただくが、必ず解消できると確信している。
昭和15年頃の京大俳句事件に代表される俳句弾圧事件など、国家権力の弾圧で俳誌の解散を命じられたときの危機に較べたら現在の赤字問題は危機とまでは言えないと私は思う。
私たちには俳句という確固たる文芸がある。文芸に親しめる私たちは幸せであると思いたい。
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