「俳句文法」入門 (24)          
─ 助動詞「つ」について─                  大林明彦 

 もみづれり、の用例を発見。愛読書の東京新聞出版局刊の沢木欣一の『俳句の基本』。NHKの依頼で俳誌「風」の9人が松島に吟行した折の9句中の1句。
瑞巌寺さるすべりより黄葉(もみ)づれり岩崎眉乃
 この句を沢木欣一が認めて放送され流行したのだ。
奈良文法では清音で「もみ」。タ行の四段活用で、〈た・ち・つ・つ・て・て〉と活用。もみてり。平安文法では濁音で「もみ」。〈ぢ・ぢ・づ・づる・づれ・ぢよ〉とダ行上二段活用。その已然形に「り」を付けたのだ。聞きよいが文法的には破格。もみぢせり。
 完了の助動詞「つ」は〈て・て・つ・つる・つれ・てよ〉と活用。人工的(意図的)な完了に用いる。主に他動詞に付く。竹取物語「かぐや姫とつけ」「はや殺してよかし」土佐日記「とく破(や)りむ」万葉集「妹見らむか」徒然草「年ごろ思ひつること」等。また動作の並立を表す。浮き沈み。上げ下げ

夜更けまで虫の音聞き針仕事完戸澄子
大寺や霜除しつる芭蕉林村上鬼城
ラグビーの暮色はなほも凝り散り中村草田男
起きて見寝て見蚊帳のひろさかな加賀千代女