「俳句文法」入門 (29)
─ 過去の助動詞「けり」について 大林明彦
過去の助動詞「けり」は、「けら・○・けり・ける・けれ・○」とラ変型に活用。連用形・命令形はない。
泰山木葉を押しひろげ咲きにけり棚山波朗
古草にしたたかな艶ありにけり池内けい吾
盆梅に水差し先師偲びけり吉田初江
落椿拾へば更に香りけり井手智恵子
野火果てて色は夕日に移りけり杉阪大和
過去「…た。…ていた」と訳す。過去の事実が存続「…ている」と訳す。「きあり」から生じた「けり」の原義。詠嘆「…なあ」と訳す。過去の詠嘆「…たなあ。…たことよ。…たのだなあ」と訳す。今迄無意識の事実に初めて気づいて詠嘆する意を表すのを、気づきのけりという。驚きや初発見の感動を表す「けり」で、池内俳句はこれに該当するか。古草の艶!西行の「年たけてまた越ゆべしと思ひきや命なりけり佐夜の中山」がこれに当たる。もう一つ過去の伝聞・伝承回想「…たということだ。…たそうだ。…たとさ」と訳す。竹取物語「今は昔竹取の翁といふ者ありけり」。
カ変「来」の連用形にラ変「あり」が付いて一語化したもの。万葉集には未然形「けら」があった。
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