「俳句文法」入門 (43) 
─── 比況の助動詞「ごとし」 ───         大林明彦

 比況とは比べ況(たと)えること。「ヨウダ」と訳す。

基本形未然形連用形終止形連体形己然形命令形活用の型
ごとしごとくごとくごとし ごとき ○ ○形容詞型

1比況の用法(…ヨウダ。…ニ似テイル。)
電線に楽譜のごとし春の鳥平岩静
さんざめくごとく蘖立ちあがる清水恵子
2例示の用法(タトエバ…ノヨウナと訳す)
 和歌管弦往生要集ごときの抄物…『方丈記』
比況の助動詞には他に「ごとくなり」「やうなり」がある。「やうなり」について。活用のしかた。

基本形未然形連用形終止形連体形己然形命令形活用の型
やうなりやうならやうなり
やうに
やうなり やうなるやうなれ ○形容詞型

 「やうなり」には比況と例示の意味のほかに状態や湾曲を示す用法がある。比況の用法を2例挙げる。
綿菓子のやうな風体春の山藤田壽穂
遙かより呼ばるるやうに鳥帰る石田瑞子
 最初の藤田さんの句は「やうなり」の連体形「やうなる」の「る」が脱落した形で口語化表現。夏目漱石の「菫(すみれ)程な小さき人に生れたし」も「菫程なる」の「る」の脱落した物。口語化を進行させている例。