「俳句文法」入門 (5)
─ 「未然形」と「已然形」について ─ 大林明彦
未然形って何ですかとの質問あり。いまだ然(しか)らざる形、まだそうなっていない語形のことで、仮定の条件を表す。例句をあげよう。夏目漱石句集より。
無人島の王子とならば涼しかろ漱石
「なら」が四段の動詞「成る」の未然形。「ば」は順接の仮定条件を表す接続助詞(もし…ならば。…なら。…たら。等に訳す)。未然形を作るには「ず」打消の助動詞、「む(ん)」推量等の助動詞、「ば」接続助詞等を下にもってくる。動詞の吹くでいえば、吹かず 、吹かむ 、吹かば 。道真の「東風吹かばにほひおこせよ梅の花…」の吹かがそれに当たる。
荒海や佐渡に横たふ天の河芭蕉
広辞苑に他動詞横たふが自動詞の四段ともあるが誤り、未然形が成立しない。横たはず、とは言わない。編集部のNさんに電話。八版において検討すると。
已然形はすでに然る形、すでにそうなっている形で、確定・偶時・恒常条件を表す。順に「…ので。…と。…と常に」等に訳す。本誌より已然形の例句を引く。
春来れば波が笑ふと能登の海人波朗
舟漕げば艫臍のきしむ入彼岸良雨
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